部屋の模様替えついでにと、モリシゲ(森繁)のダイニングテーブルを購入したので、不肖へそくりびと視点で気になったポイントをお伝えできればと思います。
記事タイトルの通り、モリシゲの家具を買うならヤフーオークションやモデルルーム落ちの中古ではなく、新品を大塚家具で買ったほうが良いと考えています。モリシゲを購入する場合、中古やアウトレットの展示品ではなく、新品を選んだほうが良い理由は、「漆」にあります。
モリシゲに息づく漆の伝統
「漆といえば香川県」
こう書くと、「え、輪島の石川県は?」とお思いの方もいらっしゃるかもしれません。実は、石川県が漆で名を馳せているのは蒔絵の分野、つまり金箔銀箔を使った装飾分野に偏っており、肝心の「塗りの技術」は断然香川県と言われています。
金箔銀箔で彩られた勇猛な鷲や龍、あるいは富士山、はたまた菊や紅葉といったわかりやすい煌びやかさを持つ蒔絵は、人々の口の端に上りやすい分野です。輪島が抜群の知名度を誇るのは、多分に蒔絵の性質に負った部分があります。また、石川県は京都をお得意様としていたこともあって、結果的に京都発の宣伝効果も高かったと言えるでしょう。
一方で、香川県の塗りの技法は根本的な基礎技術となります。玉楮象谷(たまかじぞうこく)という一人の天才が築き上げた数々の技法が現在まで継承発展されており、それは家具の世界にも息づいています。「この龍、物凄く迫力ある。今にも飛び出してきそうだね!」というわかりやすい輪島の蒔絵とは違い、香川が誇る漆芸は「おっ、これは
象谷塗りだね、深いねえ!」などと誰もが口にすることなどまずあり得ない分野です。伝統工芸や漆に通じた人でないと伝わりづらい分野でもありますが、確かな漆芸の宝庫でもある土地、それが香川県です。
そして、そんな香川県を代表する家具が、モリシゲです。家具の分野、とりわけ和洋を併せ持つ家具として、これほど漆の伝統が息づく家具はモリシゲの他にありません。使用する木材にもこだわり、漆ではなくウレタンを施す天板部であっても、漆芸よろしく細かく幾層にも塗りを施しています。たとえウレタンであっても
通常の高級家具の倍の工程をかけているので、漆以外でも一切の手を抜かない職人の自負心が見て取れます。
漆を完成させるのは使い手
日本屈指の塗りが施されたモリシゲの家具ですが、漆なので当然、取り扱いには注意が必要です。
「漆の表情が完成するのは100年後」
そう言われるように、漆は製品として完成した時点で、新たなスタートを切っています。漆独特の味わいは職人の方が仕上げた瞬間が、再出発の時となります。
漆が施された塗り面は年月を経るにつれて漆がさらに奥深くへと沈殿していくので、結果、さらに透明度が増すことになります。つまり、漆は生きているのです。同時に、生きているが故に、漆には独自の手入れが必要となります。
たとえば、手で触れて塗り面に皮脂や汚れが付着した際、一般的には24時間以内に乾拭きで綺麗にするのがベストです。もちろん、神経質になる必要などありません。使ってこその漆器や漆家具ですから、このように、
べっとりと指紋が付いても、後で綺麗に拭き取れば良いだけのことです。
しかし、これを一週間も二週間も放置してしまうと、
このように全体的に透明度が損なわれ、赤丸で囲った部分などは明らかにぼやけが定着しています。こうなると、いくら乾拭きをしてもどうにもなりません。
漆は生きていると書きましたが、生きているが故に最高の天然塗料でもあり、生きているが故に皮脂や水分と馴染んで受け入れてしまうのです。
漆は製品として完成した時から沈殿が始まり、手入れを続けながらおおよそ100年後に漆として100%の硬さになります。製品として完成時に再スタートを切った塗り面は、こうして100年後に最高の透明度と深みを見せる新たなゴールに辿り着きます。もしその漆が黒色であるなら、本当の意味での「漆黒」を見せるのはその時です。100年後ですので購入者がその漆黒を見ることはできないでしょうけれど、孫の代以降には見せてあげることができます。
手入れを怠って乾拭きでどうにもならなくなってなお自分でどうにかしたい場合、角粉(つのこ)で磨くか菜種油などの植物油で艶を取り戻す他ありません。ただ、もし私がその状況に陥ったなら、モリシゲに預けてしまいます。とても個人でどうこうする自信はありません。
漆を理解していない中古家具・アウトレット買取業者
このようなデリケートな漆をまとったモリシゲの家具は、もちろんヤフーオークションでも中古家具屋さんやモデルルームからの買取業者さんが出品しています。しかし、たとえば私が今回購入したダイニングテーブルをオークションやリサイクルショップのHPで見てみると、商品説明のどこにも漆の記載がありません。出品する側の業者が漆であることに気付いていない可能性が高いです。そして、写真を見ると手入れを怠ったであろう「ぼやけ」がそこかしこに確認できました。
モデルルームで使われる状況では、内覧に足を運ぶ人たちは漆に気づくわけもありませんから、その点は仕方ないかもしれません。また、不動産関係者に漆の手入れを期待するのも難しいでしょう。ただ、買取業者が買い取った時点では手入れが万全であった場合、その業者がただのウレタン塗装だと勘違いして取り扱ってしまったとなると、致命的です。
そうすると、いくら価格がお手頃だからといっても、再スタートに失敗した状態であることも考慮すると、果たして本当にお手頃なのかと思わざるを得ません。
もちろん、漆に馴染んでしまった痕跡を全否定するわけではありません。それも漆の持つ味わいの一つと見ることができます。
しかし、自分や家族や友人たちが残した味わいと、「そもそも漆の取り扱いも知らない素人業者が購入者の手元に届く直前まで不手際で残していくであろう痕跡」とを、同列に受け止めるには抵抗があります。
大塚家具が良い理由
そこで、モリシゲは大塚家具で新品の状態のまま買ったほうが良いと考えるのですが、もちろんそれはスタッフが手入れも扱い方も知っているからに他なりません。ぼやけが付いたモリシゲが届くことなど絶対にあり得ません。
配送スタッフの方までもが漆を知っているので、見ていて安心感すら覚えます。
配送終了時には、
何も問題がなかったことの証として購入者のサインが必要となるので当然かもしれませんが、大雨の日に配送されても安心できてしまいます。
また、大塚家具が良いと思えるのは、そのコーディネート力にあります。
私のように既にあるカーテンや椅子類はそのままでテーブルやサイドボードだけ買い換えをしたい場合、モリシゲのテーブルだからといって、サイドボードもモリシゲにすると部屋全体の統一感が取れなくなる恐れがあります。部屋全体として見ると、モリシゲよりモリシゲに調和する家具が他にあるからです。
この場合、自分たちでその家具を選んで自力でコーディネートを試みるのもまた一興かもしれませんが、コーディネートに関する引き出しの多さや組み合わせの力量で大塚家具のスタッフ、特にエキスパートやシニアエキスパートを越えられるかとなると、まず一般人には無理な話です。
もちろん、大塚家具の方々が提案するコーディネートが全て正解ということでもないのでしょうし、スタッフの方も正解が一つだけではないという意識で次々に選択肢を提案してくれます。もしそれでも気に入った提案がない場合には、購入を控えれば良いだけの話です。
幸い私は、
ベストに思える選択肢が複数ありました。
さいごに
当記事では大塚家具を薦めていますが、コーディネートが不要で特定商品の指名買いをするのであれば、大塚家具にこだわらなくても良いと思います。ただその場合でも、売る側が漆やモリシゲを理解しているかを確認願います。そこにはこだわってください。たとえこちらが知識を持ち合わせていない商品であっても、スタッフが素材を理解しているかどうかは言葉を交わせばわかるものです。満足な商品知識も知見も持ち合わせていないのにただ「このお客さん買いそうだ」という理由だけでくっついてくるスタッフは避けましょう。いくらで買うかよりも、どこで、誰から買うかのほうが大切な家具ですから。
讃岐漆芸(香川漆器)についての知識が素晴らしいですね。
なかなか知られてなくて、知る人のみの讃岐漆芸です。
モリシゲなど漆産業だけでなく、漆芸作家(人間国宝3人を含めて)も多く在住しています。
私が個人的に開いています「讃岐漆芸美術館」では、常時、讃岐漆芸の真髄を知ってもらうための展示をしています。
今後とも、讃岐漆芸をよろしくお願いします。
讃岐漆芸美術館様
コメントありがとうございます。
また、返信が遅れてしまい申し訳ありません。
私が香川県の漆芸について知るきっかけはモリシゲだったため、香川県に行った際には高松にあるモリシゲショールームにも足を伸ばして
満喫させてもらったのですが、香川県に漆芸美術館が存在することを恥ずかしながら知りませんでした。
香川に行く際には是非足を運ばせていただければと思います!